湯布院の森にある木のクラフトショップ
「器にならない木はない」
アトリエとき ~生産者さんを訪ねる その10~
2019年11月25日

「アトリエとき」は観光客に大人気の湯布院にある。


当然混雑していると思ったら、アトリエはひっそりとして静かだった。開設当時は何も生えていない山土だけの土地だったが、今はたくさんの木々に囲まれている。これらの木はすべて30年前に時松さんが植えたものか、鳥が運んできたものだ。

時松辰夫さんは、

工芸における木工を専門にし、人に教えたいと40代で大分県日田産業工芸試験所を退官し、手仕事の宝庫と言われた仙台に移住。東北大学に在籍していた工業デザイナーの秋岡芳夫氏(故人)の指導の元、岩手県で工芸を通したまちづくりに深く関わった。技術は生活のためのものであり、生活を豊かにできなければ意味がないと考え「用の美」を求めて作り続け、現在に至っている。


アトリエときには、木の器がたくさんある。お弁当箱、箸、皿、ボウル、スプーンやヘラなどの日用品ばかり。それらは、使いやすさや手や口に運んだ時の感触の良さを追求したものだ。

「柔らかい木はその柔らかさを、硬い木はその硬さを生かした器作りを心がけています。樹木は地球上に20万種あると言われていて、日本には約2000種。木工などの加工の対象になるのは200種と言われています。私は、日本の自然に育った国産の木を使います。サクラ、カエデ、イチョウなどの落葉樹、ウメやクリなどの実のなる木、ヒノキやスギ、マツなどの針葉樹、ケヤキやクルミ、トチノキなどの広葉樹・・器にならない木はないんです。その木の特性を生かしたものを作ればいいのですから。」

時松さんは「或る列車」のNARISAWA bentoのお弁当箱とスープボウル、木のスプーンを作った。デザイン制作を依頼された時に思い出したのは、子供の頃、お母さんが歌ってくれた「汽車ポッポ」の歌。その時の汽車をイメージして3つの四角い箱が並んだお弁当箱を試作した。そういえば、お弁当箱を見ていると「汽車汽車ポッポポッポ、シュッポシュッポシュッポッポー」と口ずさみたくなるようなおもちゃの汽車の形をしている。

「汽車は旅の交通手段。旅行は新しいものを見るだけじゃなくて、自分の過去をなぐさめるという意味もあると思います。旅する人がホッとするようなのがいい。お客様の気持ちに添えるお弁当箱やボウルを目指しました。」 もちろん、揺れる列車内でも取りやすいように実用性も考えた。ボウルはスープを入れるので倒れないように下に重心を持ってきた。2両ある列車の白い車両には、モミジ、黒い車両にはサクラの木を使ってコーディネートした。

「木は植物だから特別よね。地面にすっくと立って地球に必要な酸素を作ってくれるありがたいもの、だから木の器と言わず、植物の器と呼びたいくらい尊敬の念を持っています。生き物のために酸素をくれるから、お返しに空き地があったら木を植えました。それが、地域の活性にもつながります。木はね、自分の汚れを浄化してくれる。人をホッとさせる。そんな懐の深さがあります。どんどん使ってなじんでもらいたいと思いますね。」

また、旅も人間にとっての酸素みたいなもの。「或る列車」はその役目を担っているんですねとも。 「或る列車」に乗車して、時松さんのお弁当箱とスープボウル、スプーンを使ってみてしみじみ思った。どれもほどよく手や口元にやさしくなじむ。それは、時松さんが作ったからだと改めて感じた。

みなさんも、「或る列車」に乗車して時松さんの器を体験してください。そして湯布院に行ったら、アトリエときに立ち寄ってください。あなたに寄り添ってくれる器が待っています。