食材生産者ご紹介・器紹介・生産者を訪ねる

黒いいちじくのパイオニア
佐賀県・唐津市「富田農園」
魅惑のビオレソリエス ~生産者さんを訪ねる その11~

2019年12月10日
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通常のいちじくは赤紫色だが、富田農園さんはフランス生まれの黒いいちじくを育てている。黒いいちじくは、東京を始め、全国の高級スーパーやデパートでもまずお目にかかれないレアなもので、レストランのデザートや前菜などにうやうやしく出てくる、まさに黒いダイヤのようなフルーツだ。実は黒いいちじくが大好きなので、富田さんの農園に伺うのはとても楽しみだった。
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ところで富田農園のある唐津市浜玉町は、ハウスみかんで有名なところである。だが、当主の富田さんは、露地みかんは作るがハウスみかんは一切作っていない。作るのは、黒いいちじく、青いいちじく、仏手柑
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ゲンコウ
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菊芋、国産シナモン、ベルガモット
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など、希少価値のあるものばかりだ。ご挨拶も早々に、黒いいちじくのハウスに案内していただく。producer_11_7093
中に入るとたくさんのいちじくの木がのびのびと枝を広げ、ところどころに黒い実がついている。黒いいちじく好きにとっては地上の楽園!の風景。
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整然とした畑の中で手入れされた木は、1枚の葉に1つの実がつくように、様々な工夫をしている。producer_11_7142
1本1本の枝をヒモで上に吊ってやると太陽光線が葉や実にほどよく当たり、糖度が高く美味しくなるのだそうだ。producer_11_7132
もうひとつの工夫は、木1本ごとにまわりを20本のパイプで誘引し、木を支えていること。これは木の中心に自分が入って、手入れをしやすくするためと、台風などの風から防御するためでもある。私も富田さんと一緒に木の中心に入ったが、2人でも広々としていて作業がしやすそうだった。
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最初の何年かは実がならなかった。「桃栗3年柿8年というけれど、9年目にして始めて実った。」そうだ。それから試行錯誤の日々を経て、今では3年で実がなるようになった。しかも、ひと枝から最低2パックは収穫できるので商品価値は高い。富田さんはこうして思いついたことをあれこれやってみて、毎日1人で300本のいちじくの面倒をみている。producer_11_7150
1本の木にはいくつもの枝が出ているから、枝をひもで誘引するだけでも大変な作業。剪定に至っては、1日に4本しかできないそうで、夜明けから昼まで作業し、昼食後、日が暮れるまで畑仕事をする。これだけ手をかけているから、最高の実がなるのだ。
「さあ、どうぞ。好きなのをもいで食べてみてください」と言われる。どれが完熟しているのかよくわからない。外から見ただけでは微妙にわからないのだ。富田さんは見ただけでわかるそうだけど、ちょっと持ってみてほどよく熟れていそうな実をもぐ。ざっくり割るとキラキラと光った果肉が見えた。よく見るとこれはいちじくの花の中心にある種で、このまわりから蜜が流れ出ている。光って見えるのは蜜なのだった。「いちじくは果肉の中に花があるんだよ。花の数が多いほど糖度が上がる。これは完熟して美味しいよ」と、富田さん。
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食べてみるとねっとりとして甘味が強く、この上なく美味しい!魅惑的な味に引きこまれてしまう。
「いちじくはね、完熟した実を木から取って食べるのが一番美味しい」と富田さん。富田さんは農協にも入らず、ずっとインディーズを貫いてきた。
「私は日本一が大好き。二番ならやらなくてもいいと思う(笑)」
だからベストの状態で出荷する。雨が降ると、20度余りある糖度が下がってしまうので、収穫しても販売はしない。それらは、ドライフルーツにしたり
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コンポートなどの加工品にする。
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富田さんは言う。「自分が作ったものは捨てるところが何もない。」これだけ手をかけて育てているからこそ言えることだし、加工して無駄なく良い商品に仕上げているところもさすがだと思う。
富田さんはビジネスマンである。JR九州の食材担当兼このブログ担当の宮崎さんに「1パックで4~5個入る黒いいちじくを、ひと枝から2パック作れるようにしたら、1本の木から大体どのくらいの収益が見込めるか?あ、1本の木から1500個くらいは収穫できるから」と問われ、宮崎さんはあわてて計算していた(笑) 黒いいちじくは3年で1本10万円を売り上げる木に育てると言う。こうして商品価値の高い黒いいちじくは、佐賀の富田さんから日本中に広まった。編み出した技術はすべて公開している。
「黒いいちじくが、いちじく全体の生産量の1%になって、みんなに食べてもらいたいからね。」
他に栽培している青いいちじく、お正月の花材に欠かせない仏手柑や、菊芋、ゲンコウ(柑橘類の1種)、シナモンなどは富田農園が日本一の生産量を誇る。
富田さんの農ビジネス論は、人のやらないことをいち早くやる。糖度を気にしなくてもいい仏手柑やゲンコウなどを栽培物の一部に入れる。菊芋やゲンコウなど、健康によいものを作る、なのだそうだ。
「息子たちに主な生業は譲った。今は隠居の自由な身の上。ばってん、何か最後のバクチを打ちたい。(笑)それが今栽培を始めたベルガモットとヒカマ。」
富田さんは、まだまだ隠居というよりもバリバリ現役の開拓者だ。
今回は、そんなオンリーワンの富田さんから黒いいちじくの栽培や味のことだけではなく、農業をしっかりビジネスとして考えないと成長産業にはならないということを教わった。ありがとうございました。
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富田さんの黒いいちじくの収穫期は、9月中旬から11月下旬。今年の収穫は11月10日までと伺った。この希少な黒いダイヤを使った極上のデザートを「或る列車」でぜひ味わっていただきたいと思う。
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