良質な牛乳は上質なチーズを生み出す
佐賀県嬉野市のナカシマファーム ~生産者さんを訪ねる その1~

2019.7.5

スィーツに欠かせないチーズを作る ナカシマファーム

ナカシマファームさんはお茶で有名な佐賀県嬉野市にある酪農家である。青々とした麦畑が広がるのどかな土地で、家族で牛を飼育し、搾乳した乳から様々なチーズを作っている。producer_01_6045producer_01_6057producer_01_6104

今、中心になっているのは、3代目の中島大貴さん。若干32歳の若き当主だ。

もともと彼は建築を学んでいたので、工房兼ショップは自ら設計。清潔な白い外観、シンプルな内装でとても気持ちのよい空間だった。

伺った時、工房ではちょうど本日分のモッツァレラチーズを作っているところで、さっそく見学させていただいた。

大きな四角い容器にお豆腐のような生乳を凝固させたものが並んでいる。

しぼりたての乳に乳酸菌やレンネットを入れて固め発酵させると、あるポイントでのびる性質を持つようになる。それを熱湯で練り、丸めていくとモッツァレラチーズができるのだ。手早く丸めていく作業を見守っていると、「カードを味見しますか?」と一口出してくださる。甘みがあってほのかにいい乳の香りがする。おいしい!すごくおいしい!
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この他にも、ゴーダチーズの熟成庫を見せていただく。

一つ6キロほどの大きなタンバル型のチーズが約100個ほど、室温10℃以下の貯蔵庫でずらりと熟成中だった。4ヶ月熟成、8ヶ月熟成のものを作っていると言う。producer_01_6036producer_01_6041

試食させていただいたゴーダチーズは旨味とコクがあるのにさらりとした食べ心地でそのままワインのおつまみに、またいろいろなお料理に使えそうだ。モッツアレラチーズはそのままいくらでも食べられる。乳清を煮詰めて作るキャラメルのような風味のブラウンチーズはおやつがわりにもイケる。

そもそもこのブラウンチーズは主にノルウェーで作られていて、日本ではなかなか入手しにくいレアものだ。そしてお菓子にも使える軽やかなフロマージュブランはもちろんそのままコンフィチュールや蜂蜜を添えれば素敵なデザートに。すべてが本当においしくてたまらない。日本にこんなにおいしいチーズがあるなら、日々食べたい! 結果私は、いつものごとく、何種類かのずっしりと重いチーズをお買い上げさせていただいたのだった。

そもそも中島さんがチーズ作りを始めたきっかけは?

「今、酪農家が減る中で、牛乳を生産して喜んでもらえるようになりたいな、と思ったんです。牛乳は賞味期限が短いですし、牛乳を作る設備投資も大変です。その点、チーズは乳を発酵させて作る保存食品で、その土地の微生物の力を借りて作るのでより地域性も出せるかなと。野菜農家さんが漬物を作るように酪農家はチーズを作る。それが自然な流れだなと思ったんです。そういえば、祖母は漬物や味噌、おまんじゅうなどなんでも手作りしていて、僕は味見係でした。そういう環境もあったのかなと思います。」

建築は環境を作るものだと思っている中島さんにとって、チーズ作りもまた環境が大きく作用するもの。そこにも共通点があり、やりたい気持ちを後押ししたのかもしれない。

そうして実験をするように、チーズをトライ&エラーで作り始めた。

「今、チーズを作り始めて7年目。3年くらいやってやっとわかるようになってきました。」

独学だったので、目指すところは100だが、当初は70%のクオリティをコンスタントに作れることを目指した。たゆまぬ努力が実って、現在作っている8種類のチーズのうち、6種類はチーズプロフェッショナル協会で堂々入賞を果たしている。その品質の高さにはすでに定評がある。

「或る列車」のスィーツコースの演出をしている青山の名レストラン”NARISAWA”の成澤さんもこちらのフロマージュブランを気に入り、「或る列車」のスィーツに使っている。

「牛舎をご案内しましょう」と言って中島さんは奥に続く大きな牛舎を案内してくださった。今飼育しているのは80頭ほどのホルスタイン牛。

なんとものどかな表情をした牛たちが、私たちを見て牛舎から顔を出して挨拶してくれる。人なつこい牛たち! 牛たちは鳴かない、それはストレスがないからだそうで、興味深げに近寄ってはくるが、本当にただの1頭も鳴かない。だから牛舎に80頭もいるとは思えない静かさだ。

牛舎に入っていってとても驚いたのは、全く畜舎の匂いがしないこと。

「いい乳を出すために、牛たちによく食べてよく眠ってもらい、ストレスのない環境を作りたいと考えています。」

そのために、輸入牧草のほか、牛用に品種改良した甘い稲を栽培し牧草として使っている。大麦を発酵させて混ぜようと今、大麦を育ててもいる。

「発酵させた品質のよい餌を食べさせて牛のお腹の環境を整えることはとても大事。そうすると、糞の嫌な匂いが軽減します。さらにこの牛糞とよく発酵したたい肥を混ぜて発酵させています。これを牛舎に敷いているのでまったくにおわなくなりました。」

牛舎にいる牛たちは奥の一段と高くなった広々とした土の上で気持ちよさそうに寝ている。

この土が、たい肥と牛糞を発酵させた魔法のベッドなのだ。

このベッドは、飼料用の大麦や稲の肥料にもなっている。producer_01_6053producer_01_6068

牛を飼い、乳をしぼってチーズを作る。牛の餌になる穀物や草は自分たちで作り、肥料は牛たちの糞をたい肥化させたもの。それは一連の循環型酪農業といえる。

「以前、佐賀県には100軒以上の酪農家がいました。が、この10年で40軒に減ってしまいました。さらに市内では、現在うち1軒だけです。せっかく酪農を続けるならまわりの環境にやさしく、もっとみんなもやりたいと思えるような形を作りたいのです。」

乳という素材を丁寧に作り、他にはないおいしいチーズという産物を生み出す。中島さんは、酪農をさまざまな面からよりよいものにしていこうと日々努めている。こういう若い酪農家が増えたら、日本の酪農も明るいと思う。

中島さん、頑張ってください!producer_01_6051producer_01_6084producer_01_6164

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