奄美大島の風に吹かれて
ドラゴンフルーツ農園フキダ ~生産者さんを訪ねる その6~
ドラゴンフルーツを育てる
空港から車で走ること約20分、東西に長い奄美大島の北部喜瀬エリアに、柊田(フキダ)さんの農園がある。場所がわかりにくいからと、柊田さんと小さな郵便局の前で待ち合わせし、細い農道をいくつか入り込んだところに案内された。
そこにドラゴンフルーツの畑があった。
はじめて見たとき、この植物は一体なに?と思った。サボテン科なのは間違いない。ところどころにとげのある細長い多肉植物がのたうつように伸びている。上に伸びるように棚を作っているが、そこから自由に育っているうちにこんなに伸びちゃいました、という風情だった。
「これがドラゴンフルーツです」と柊田さん。
穏やかなご主人は、今、畑は4カ所にあり、ご夫妻で約3000本のドラゴンフルーツを育てていると教えてくださった。収穫期は7月から11月ごろまで。伺ったのは6月11日で、ちょうど、大輪の花が咲き始めていた。白い花がゆらゆらと何輪か咲いている。月下美人のようにあでやかな花だ。
役所勤務からドラゴンフルーツ栽培へ
柊田さんはずっと役所に勤務していた。当時は農政課にいて、いろいろな農産物に触れる機会があり「20年以上前にね、ドラゴンフルーツどうだろうと持ち込みがあって、試食したら酸っぱいだけの味でね。こりゃダメだろうという話になったんですよ」その15年ほど後、また、試食をする機会があり、その時は甘かった。収穫する時期がよかったのかもしれない。
「ちょうど10年前に定年退職して、2年くらい遊んでいたけれど、ドラゴンフルーツちょっと作ってみるか、という話になって、スタートしました。」
それが、8年前。はじめは200本の苗を植え、作り続けているうちに現在は約3000本もの栽培をするようになった。最初は自分たちが食べる分だけ作り、友達にあげているうちに評判になり、販売するようになったそうで、今では全国各地に直販している。
お客様の、皮も漬物などに加工して安心して食べたいという要望もあり、無農薬で作っている。1本のドラゴンフルーツに対して油かす200g、堆肥を3kgもあげているから、平均400g、大きいものは1,3kgもの立派な実がつくそうで、ふかふかの畑に育つ立派なドラゴンフルーツは健康優良児みたいである。
ドラゴンフルーツの種類は果肉が赤い「赤」と果肉が白い「白」の2種類があり、赤の方が甘みが強いのだそうだ。白はコクのある甘さでちょっと味が異なるそうである。ドラゴンフルーツというと、ボケた味しか想像しないが、柊田さんのは違う。甘みも酸味ものって美味しく、レストランNARISAWAの成澤さんは「或る列車」のスウィーツメニューや自分のお店でも使っているという。
最強のドラゴンフルーツ夫妻
ご主人と話しているうちに、途中から元気な奥様の慶子さんが登場。
「ドラゴンフルーツの花は月下美人と同じで、夜咲いて朝にはしぼんでしまう一夜花なの。
だいたい、夜8時から9時に開きはじめ、11時くらいに満開でね、なにしろ3000本あるでしょ。それが大きな花をたくさんつけるからものすごくゴージャス。昨年は新聞にも載ったくらいです。満開の頃は、知り合いから連絡がきて、畑にみなさんが見にきて本当ににぎやかなの。だいたい花が咲いてから40日くらいで実がなります。」
「ホラ、ポツポツついている赤い小さな芽がドラゴンフルーツのツボミ。
たくさんついているでしょ。摘果して天ぷらにすると美味しいから、作ろうと思ってたのに、みなさん早く来たから間に合わなかったわ〜」と言いつつ、たくさんのさねん餅と餅米天ぷらを大皿にのせて持ってきてくださる。
月桃の葉でよもぎ餅を包んで蒸しあげた「さねん餅」。
サツマイモや卵で作ったマーラーカオに似た「ふくらかん」。
「餅米天ぷら」というのはサツマイモと上餅粉と卵、ザラメなどで作った揚げ菓子。もっちりとしたドーナッツみたいでとてもとても美味しかった。
しかし、取材に伺ったのはJR九州の食材担当兼取材のガイド役の宮崎さんと、カメラマンの板野さんと私の3人である。手作りの餅菓子はどう見ても、10人前以上はある。そのほかにも、自家製のラッキョウや漬物、
バナナ(島バナナではなく、フィリピンバナナだった)や甘納豆やお茶や元気になれそうなスタミナドリンクまで出してくださった。最終的には、海岸で拾った貝殻で様々な置物やアクセサリーなどを作るのが趣味の慶子さんの素敵な作品も、どうぞどうぞとおすすめされた。奄美大島の柊田さんご夫妻のおもてなしはハンパない。
そして、慶子さんのトークは絶好調。楽しいことこの上ない。
ドラゴンフルーツの島へ
ドラゴンフルーツ栽培は好調で、将来的には5000本まで増やす予定だそうだ。1本のドラゴンフルーツから5個の実を収穫するくらいがちょうどほどよく、5000本だと25000個の収穫。繁忙期を除けば、夫婦でなんとかできる範囲だという。
ドラゴンフルーツ栽培は主に荒廃地を農園化して利用する。5000本の植え付けでも約50アールの面積の栽培でできるため、主産業のサトウキビ生産に与える影響も少なく、そのメリットはかなりあると柊田さん。もっと作る人が増えて、奄美大島がドラゴンフルーツの島になったらいいなとも。
「大変なのは、草むしりとカタツムリやバッタを取ること。無農薬だからたくさん虫が来ちゃうの。昔から農業をやっていなかったから、虫は苦手だね。でも、早朝2時間、あとは夕方5時以降に作業すればほぼ大丈夫なのよ。だから、ほら、全然焼けてないでしょ。」
お二人とも確かにきわめてお元気そうだが、日には焼けていない。柊田さんご夫婦は、これからも最強ドラゴンフルーツ夫婦として奄美大島のパワーを感じさせてくださると確信。空港から近いところに風通しのよい貸別荘もお持ちなので、元気になりたいときに伺います!
後日、送っていただいたドラゴンフルーツを食べたら、今までの概念がひっくり返った。甘みも酸味ものっていて、とても美味しかった。
カットしてそのまま、またヨーグルトと合わせても美味しい。バナナ、牛乳などと一緒にスムージーやジュースを作るとピンクが鮮やかでチャーミング。この他ジャムやきれいな色を生かしてゼリーにしてもいい。無農薬の皮はお漬物、さっとゆでてサラダや、かき揚げなどにすると美味しい。身も皮も大事にいただきたいと思う。