アイガモ農法の米で醸した地酒にこだわる。
福岡県・瑞穂菊酒造
~生産者さんを訪ねる その15~
福岡県・飯塚にある創業150年の瑞穂菊酒造さん。周辺は山や川のある自然豊かな土地で、美味しい酒を醸している。
蔵元兼ショップは、商店街の一角にあり、酒造りは細長い店の奥で行っている。
オーナー兼杜氏の小野山洋平さんは、ちょうど麹を作っているところだとのぞかせてくださった。ホカホカと湯気の立つ麹を手早く返しては混ぜ、を繰り返す。丁寧な手作業で瑞穂菊の酒は作られているのだ。
この界隈は炭鉱の町だったから、造り酒屋が多かったという。小野山さんは大学卒業後、すぐに家に戻り、あとを継いで酒造りを手伝った。
「この酒造は僕で6代目です。20年以上前までは杜氏さんが住み込みで酒を造っていましたけど、杜氏さんたちの高齢化などで、今後なかなか続かないだろうなと思っていました。案の定、平成5年以降、杜氏さんが見つからず、昔からお付き合いのあった杜氏さんに教わりながら、自分で造り始めました。ずっと手伝いはしていたので、造り方はなんとなくわかっていましたが、酒造りは大変です。気候などによって微妙に変わってきますから。1年目は暖冬、2年目は寒かった。冷やしすぎると酵母数が増えず、発酵が進まない。いろいろ試行錯誤しましたが、今は自分が杜氏をやり、スタッフと一緒に酒造りをしています。」
しかし当初は、自分は杜氏として務まるのか?この酒蔵ならではの酒が造れるのか?と思い悩んだ。
そんな頃に出会ったのが、近所でアイガモ農法米を作る古野隆雄さんだった。古野さんは、無農薬、無化学肥料で米作り、野菜作り、畜産を手掛ける人。
古野さんは小野山さんに「うちは、自分の田んぼでごはんとおかずを作っています。小野山さん、晩酌を作れませんか?」と声をかけた。近所で育った健やかな米で酒を醸す。それは米の作り手の晩酌となる、という発想に共感し、小野山さんは古野さんの米で瑞穂菊の酒を造ろうと決意した。
こうして瑞穂菊酒造のシグネチャーとなったのが、古野さんの米―ひのひかりを使った純米酒「一鳥万宝(いっちょうまんぼう)」だ。これは、田んぼのアイガモが害虫や雑草を食べ、糞が肥料になる。アイガモは食肉になり、稲もアイガモに刺激されていい米を育む。いい米はいい酒の大事な原料だ。アイガモのおかげで『一石二鳥』だけでなく万の宝を生み出してくれる、ということから名付けられたものだ。
こうしてできた「一鳥万宝」は平成27年第4回福岡県酒類鑑評会で、純米吟醸酒・純米酒の部で4年連続金賞を受賞した。瑞穂菊酒造は、地元の米を使い、地元の自然の恵みを受けた、真の地酒造りが認められたのだった。
さっそく試飲させていただいた。米の風味を感じられる豊かな味わいでありながら、スッと喉を通る。これは晩酌にぴったりだろう。
小野山さんは「私はやや甘口の食中酒が好きです。東京は醤油やみりんを入れた味の濃い料理が多いから、辛口の酒が合いますよね。京都は軟水なので女酒。土地によって味が変わるのは楽しみでもあります。うちは麹も自家製。相手は生き物なので大変ですが、それだけに作りがいもあります。」
うちの屋号をつけた人気の運大吉(うおきち)などの他にも、最近は、女性の心をつかもうと、新しい酒作りにも挑戦。フルーティでちょっと甘口。冷やして飲むと美味しい『ボンデクリック』。フランス語で「いいきっかけ」という意味の酒は、福岡県飯塚産夢一献を福岡夢酵母で醸したもの。
これもふくよかな飲み口で美味しく、東京へのお土産に購入させていただいた。
「或る列車」では、瑞穂菊酒造の酒や酒粕を贅沢にも調味料として料理に使っている。
小野山さんの地酒作りへの強い思いが、「或る列車」の料理を一味も二味も美味しくしている。調味料も九州産のものにこだわっている「或る列車」。それを実際に味わっていただきたいと思う。